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広島高等裁判所松江支部 昭和45年(ネ)19号 判決 1972年9月13日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、申立

控訴代理人は、「一、原判決を取り消す。二、島根県隠岐郡西郷町大字東郷字石畑三五番山林一反のうち、原判決末尾添付図面の9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、C、B、A、ト、ヘ、6、7、8、9の各点を順次結んだ直線内の土地および同地上立木の所有権が控訴人に属することを確認する。三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

二、当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決摘示事実第二の一、三、第三の一、二のとおりであるから、ここにこれを引用する(ただし、原判決三枚目裏一行目「死亡」とあるのは「隠居」と訂正する。)。

控訴代理人は、「本件土地は、時効期間の進行中も時効完成時においても、人格なき社団であつた東郷部落の共有(総有)の性質を有する入会地であり、被控訴人は、その入会権者の一人であつたのであるから、控訴人による本件土地の時効取得の関係では当事者であり、民法一七七条の登記の欠缺を主張しうる第三者ではない。」と述べ、

被控訴代理人は、「被控訴人が入会権者の一人であつたことは認めるが、控訴人も同じく入会権者の一人であつたのであり、このような場合、被控訴人は、控訴人の登記の欠缺を主張しうる第三者というべきである。」と述べた。

控訴代理人は、当審における控訴本人尋問の結果を援用し、乙第一〇ないし一三号証の各成立を認め、

被控訴代理人は、乙第一、〇ないし一三号証を提出し、当審における被控訴本人尋問の結果を援用した。

理由

控訴人主張の請求原因(一)の事実は争いがない。

控訴人は本件土地の所有権を時効により取得した旨主張するが、その事実の存否に関する判断はしばらくおき、右の事実が認められる場合、控訴人がこれを被控訴人に対抗しうるかどうかについて判断する。成立に争いのない甲第一三号証、乙第一号証、同第三号証の七、八、一一ないし一三、同第四号証の七、一二、同第五号証、原審証人前田カヨ、同吉田サミの各証言、原審および当審における被控訴本人尋問の結果、ならびに弁論の全趣旨を綜合すると、前記三五番山林は、明治二八年一〇月一九日より以前から、旧東郷村の東郷部落(地不)のいわゆる共有の性質を有する入会地に属していたところ、昭和二三年一〇月一七日競争入札の方法により同部落から訴外原次芳に売却され、昭和二四年二月同人から被控訴人に売り渡されたこと、同山林について昭和二七年七月一六日東郷村名義の保存登記がなされたうえ、中間省略により同日被控訴人のため所有権取得登記がなされたこと、以上の事実が認められ、これを動かすに足りる証拠はない。右認定の事実によると、控訴人主張の時効完成当時における本件土地の所有者は東郷部落であり、その後被控訴人主張のとおり同部落から原次芳に、同人から被控訴人に順次本件土地の所有権が移転し、被控訴人のための所有権取得登記がなされているのであつて、被控訴人は、控訴人主張の時効による物権変動については当事者ではなく、第三者とみるべきものである。本件土地がもと東郷部落のいわゆる共有の性質を有する入会地であつたことは前記のとおりであり、被告訴人が右部落の構成員であつたことは当事者間に争いのないところであるが、これによつて右の結論は異ならない。けだし、いわゆる共有の性質を有する入会地の地盤所有権は入会部落に総有的に帰属しているのであつて、右権利の主体はあくまで部落であり、その部落の構成員である入会権者個人はその地盤についてはなんら持分権をもたず、単純な共有関係とは異なるものと解するのが相当であり、したがつて、その地盤所有権の時効取得との関係で被控訴人を当事者とみることはできないからである。そして、被控訴人をいわゆる背信的悪意者と認める特段の事情のない限り、右事実関係のみをもつてしては被控訴人が控訴人の本件土地の時効取得についてその登記の欠缺を主張しえない第三者であるとみることはできないところ、右のような特段の事情についてはなんら主張立証がない。そうすると、その主張する本件土地の時効取得について登記を経たことの主張立証がない控訴人は、これを被控訴人に対抗することができないものといわなければならない。

また、本件地上立木の所有権については、その土地を離れて独立の所有権の対象となる旨の主張立証がないから、本件土地の所有権を被控訴人に対抗しえない控訴人が同地上立木の所有権についてもこれを被控訴人に対抗することのできないことは明らかである。

以上のとおりであるから、控訴人の被控訴人に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当であり、これを棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八八条を適用して、主文のとおり判決する。

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